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インプラント周囲炎増加の背景とその懸念

2014年03月01日

現在、各国で歯科用インプラント治療が急速に普及し、ともすれば欠損補綴の第一選択とされるような社会状況になろうかという情勢である。インプラント治療が世界の一般開業医に普及することで、そしてインプラント体と骨の結合を早めるためにインプラント体の表面性状が改善され、生体細胞との親和性が増加すると同時に、細菌感染のリスクも増加すると推察され、インプラント周囲炎が増加している。インプラント周囲炎とは、歯周炎と同様の細菌感染症であるが、人為的に生体親和性が高いとはいえ異物を顎骨内埋入し、これが感染したものである。つまり、歯科治療によって作り出してしまった感染症といえる。インプラント治療を行わなければ、インプラント周囲炎は発症しない。とはいえ、異物感が極めてすくない固定性の補綴物であり、少数残存歯症例では、天然歯を守るという意味でも極めて重要な役割を演じる歯科治療でもある。そのため、インプラント周囲炎を理解するためには、病因論・診断に重きをおき、なぜ感染症がおきるのかあるいはおきやすい環境なのかを十分検討し、そのうえで原因除去を徹底したうえで治療方法論に移行しなければならない。その上で、インプラント周囲炎を治療するためには、徹底した細菌学的原因除去の後に、インプラント体を如何に傷つけずにデブライドメントできるか、そしてその後に骨組織を再生させるかということが重要となる。Er:YAG laserは、水分子に吸収されるレーザーであり、生体組織を炭化・熱変性および熱上昇させることが極めてすくないハードレーザーである。Er:YAG laserは、歯周組織の切除、歯石の除去、および骨やセメント質などの生態硬組織の蒸散と除去ができるレーザーである。本レーザーはある一定のエネルギー設定においては、チタン表面の変性、温度上昇、溶解などが極めてすくないことが知られている。また、照射面の細菌を非熱で殺菌消毒できること、そしてLPSなどのデトックスが可能なこと、くわえて生体の治癒活性を上昇させること、などが報告されており、インプラント周囲炎におけるインプラント体のデブライドメント、骨組織に対するデコルチケーション、インプラント周囲硬および軟組織の殺菌消毒と細菌代謝物の無毒化、そして生体組織の活性化による治癒促進が期待される。我々はインプラント周囲炎を発症した患者に対し、細菌検査免疫検査を用いた診断に基づく抗菌療法に引き続き、Er:YAG laserを用いてフィクスチャ―のデブライドメントおよび周囲組織の殺菌を行い、その後の再生療法において良好な結果を得ている。日本では、Osseointegration study club of Japanという、臨床家のインプラント学会において、上記方法を用いた理事長の吉野敏明のインプラント周囲炎治療が発表コンペティションで優勝(最優秀発表賞)を受賞し、また海外では米国のPeriodontics and Restorative Dentistryという、3年に一度しか開かれない学会において、インプラント周囲炎治療の臨床研究症例で第二位を受賞した。現在も、臨床実績を積み重ね、海外との共同研究などでもエビデンスを構築しているところである。しかし、インプラント周囲炎が、悪気がないとはいえ歯科医師が人為的にインプラントを埋入したことで起こされた疾患であることには、心を痛めている。インプラント周囲炎の発生抑止とは、よく歯周病を理解し、そして治療が出来る歯科医師がインプラントを施術するべきである、と我々は考えている。